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ブラス! 日本、吹奏楽の旅

「ブラス!」という英国映画がありました。閉鎖に直面した炭坑のブラスバンドが、ロンドンの大会で優勝するというヒューマンドラマです。原題は「Brassed off」、それを日本題は<ブラス!>と映画タイトル史上希有な感嘆符付きに仕立てたのは、実にお見事、やはり吹奏楽というのは元気が出るものだもの、と私が実感したツアーについて紹介させて頂きます。

茶畑 浜松に本社がある大手楽器メーカーY社のインセンティブツアー、お客様はドイツの楽器販売店の方々約20名でした。ツアーは、セントレア空港出迎えで初日から絶好の秋晴れ。ドイツ語には、<天使が旅をすると空が微笑む>という諺があり、 おヒゲの中年男性達をエンジェルというのはちょっと苦しいながらも<この秋晴れ、お客様は天使ですかねえ〜>と持ち上げて旅は上々の滑り出しです。左右に広がるミカン山や浜名湖を眺めながら、まずは浜松に到着。浜松と言えば、うなぎと楽器でしょうか。メインは工場見学の旅ですので、到着翌日からは、金管楽器工場、ピアノ工場などの視察が次々と入ります。通訳は、専門用語になるので、ツアー前には必死で詰め込みました。ひとつ紹介しておきますと、グランドピアノはドイツ語では「フリューゲル」と言います。「翼」という意味です。上蓋の流線型が天使の翼のようですから。このフリューゲル、世界のプロピアニストの間では愛好されているY社製品ですが、現在生産されているもののうち販売シェアは国内ではごくわずか、残りは全て海外向けなのだそうです。その理由は、少子化と日本の住宅は狭すぎる。ではどこの国で売れているのかというと、やはりNo.1は中国だそうです。日本の基幹産業は新興国に支えられているという実態が楽器の世界でもあるようです。
そして、東京では銀座本店の視察。日本ではY社のような楽器メーカーが街の音楽教室を展開しているわけですが、こういうビジネスモデルはドイツでは見られず、お客様は、日本の市井の音楽教育熱に感嘆されておりました。

ブラスバンド また近郊にある小学校や大学のブラスバンドを見学するというプログラムがありました。後でお客様に今回のツアーで最も何が印象的でしたか?と聞くと、多くの方が、小学校での歓待だと。千葉県柏市のとある小学校。まず、子供たちはこの日のためにピンクちり紙でお花トンネルを準備してくれており、みんなの拍手の中、お客様はくぐります。まず、こういう細かい気遣いだけでも、ドイツ人はとても感激するわけです。
いざ、女性の教師が来てブラスバンドの練習の始まり。これが音合わせが延々と続くのです。この音合わせに日本の学校の多くではキーボード型の電子調音機器を使うようです。これが普及しているのは日本とアメリカだけ。では、ドイツではどのようにしているのかというと、古典的なやり方でピアノや音叉、そしてメトロノームを使うのだそうです。そこで、このY社の調音機器をドイツでも普及させようというプロモーション企画だったわけです。
延々と続く音の入りの練習。女性教師の叱咤の声。実演が始まれば音に一糸乱れなく迫力があり見事な演奏。演奏が終わって整然と着座。まるで軍隊のような規律のよさ。演奏後のフリータイムで、子供たちからの自由質問で、ドイツ人へ<毎日ビールを飲むんですか?>というのでやっと爆笑が来ました。ドイツでは学校での課外活動はなく、クラブは地域や教会が主催しますから、学校でこのように懸命に練習すること、早朝練習まであることにお客様は驚き、そしてなによりも子供たちの規律の良さと熱心さに感銘を受けておられたようです。日本では吹奏楽部に所属する現役人口は約100万人、一度でも所属したことがある人を入れると1千万人とも言われ、世界に冠たるブラバン大国なのだと初めて認識しました。ここまで吹奏楽が普及した理由を私なりに考えましたが、一つは、普門館が「吹奏楽の甲子園」と言われるようにコンクール様式が動機付けになっていること、もう一つは、野球の応援に吹奏楽が動員されるように活躍の場があることではないでしょうか。 ドイツでは、そういう全国版のコンクールは普及していないそうです。また国技はサッカーでしょうが、ここではブブゼラですら禁止されていますから。そして、学校教育の中で、吹奏楽を通して「規律と鍛錬」を学びながら、音楽を一生の友とできることの充足感、これが日本の吹奏楽人気を支えているものと思います。

明日がある さて、ツアーの最後の方は観光に費やし、音楽好きのグループとて、屋形船の中でもカラオケ、銀座ではカラオケバー、移動のバスはいつも歌がある、という風に、あちこちに音符をまき散らしながら8日間の賑やかなツアーは無事終了しました。
3・11の大災害の後、このツアーのお客様の一人からお見舞いのメールを頂きました。読めば、その最後に、<Ashita ga aru!!>と感嘆符二つ付きで書いてあります。すぐに思い当たりました。バスの中で何か日本語の歌をというリクエストに応えて、音痴にもめげず私が披露したのは、<明日があるさ、明日がある〜♪♪>の歌でした。失敗が多い自分へのテーマソングです。画用紙に書いて、サビの部分は一緒に歌ってもらっていましたので、皆さん道中覚えて口ずさんでいらっしゃいました。
半年たっても、このメロディーを覚えて下さっていたのですね。そして、被災した日本への励ましの言葉として下さったのですね。感激です。
その通りです。「ブラス!」「明日がある!!」復興への長い道程を感嘆符付きで自分に声がけしながら前を向いて行きましょう!

(森田 浩子)

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