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頼られることの実感

辻 由果さん 私のロシア語の通訳ガイドとしての初めての仕事は高校生のスポーツ大会だったのですが、仕事がきた時は不安で、訪問地のことを調べるなどの準備するのはもちろんのこと、JFGの先輩の方々に、エージェントさんにこのような 質問をしても失礼ではないか、どんな服装をしていったらいいかまで質問しました。
初日、私の最初の主な仕事は、事前に先輩のガイドさんがガイディングをひきうけてくださったおかげで、その方が同行する一団がバスを下りられてから、ホテルまでの10分間、ホテル設備の説明、注意事項を伝えることでした。
最初が肝心と思い、文章は丸暗記してありました。前に立ち、マイクを持って「あと10分でホテルに到着します。その間、ホテルの設備について説明させてください。」と話しはじめたそのとき、視線がこちらに集中し、実は あまり聞いてくれないのではと心配していたのが吹きとびました。
以降も、ホテルのロビーやレストランで私に話しかけられ、食材や物価、店への行き方など尋ねられるたびに、頼られているのを強く感じました。日本語を理解できない彼らにとって私が唯一の情報源だったのです。

期間中は、楽しかったけれども、緊張からか、疲れているのに夜もよく眠れませんでした。失敗は数え切れず、後悔と自己嫌悪の連続でした。
仕事がすべて終わり、選手団を見送った後も、そのせいで落ち込んでいたのですが、別のガイドさんから、わたしが同行していたグループの引率の方が「いろんな大変なことがあって、通訳さんがいなければとても無理だった」とわたしのことを話していたと聞きました。
その時にこの仕事をやってよかったと改めて感じましたが、一方でもっとたくさんのことをしてあげたかったとも 強く思いました。

ガイディングとよべるものは、送迎でも公共のトランスファーを使うことばかりで、近くの席に座っている人に説明したり、質問に答える程度で、ほとんど経験していません。
しかし、最近、あるとても天気のいい日に、都内ホテルから羽田空港に向かうリムジンバスのなかで、お台場が近づいきたときに声を少し上げて、ばらばらに座っていたグループ全員に聞こえるように「もうすぐ東京湾のきれいな景色が見えますよ」と言ってみました。お台場の景色が広がった時、歓声を挙げ、はしゃいで集合写真を撮っている彼らが喜ぶ様子にガイディングの魅力が少しわかったような気がしました。わたしが、それを言わなかったとしても、彼らがあの景色を見逃すことはなかっただろうし、その素晴らしい景色は私の功労であるはずがありません。でも、私の言葉で彼らの気持ちを盛り上げられたこと、写真を一枚多く撮れたこと、ただそれだけのことが嬉しくてたまらなくなりました。

私の通訳ガイドとしての経験は、量的に限られたもので、そのうえ断片的で、いまだ通訳ガイドの業務のすべて どころかだいたいをも把握できていません。
毎回、新しく何かを学び、そのたびに通訳ガイドの仕事の面白さ、難しさを思い知らされています。

(辻 由果)

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