由緒ある成田山別院で鮮烈な仏教体験 ― 深川不動堂(江東区)

「深川不動堂」 私は昨年10月、30年以上のブランクの後、ドイツ語通訳案内士として再デビューしました。紅葉・桜のシーズンの仕事を一当たり手がけたばかりです。 そんな私に思いがけず今回の寄稿のお話が舞い込んできました。経験豊かな会員の方々に私ごときが本来語れるものなどありません。 ですが、外国人の間でまだあまり知られていない(トリップアドバイザーの英語の口コミ数は4 !)深川不動堂で、都内で貴重な仏教体験が常時できることをご紹介したく、お寺の方に伺った話も交えて書くことにしました。

深川不動堂は、起源が平安時代に遡る大本山成田山のご本尊、不動明王像が元禄時代からこの地で何度も出開帳されたことに由来するお寺です。 明治14年に東京別院として建立されました。 現在外壁が黒色、金色の真言梵字尽くしという新しい本堂で護摩祈祷が毎日5回、9時から17時まで2時間ごとに(正月、毎月1、 15、 28日の縁日は19時まで)30分間行われ、 誰でも気軽に(座席は階段状に並ぶ畳ベンチ席)参列できます。法螺貝を吹き鳴らす僧侶が瀟洒な本堂に入場して開式となります。 成田山本山の開創も語る祈願文が奏上され、読経が続きます。そしてご住職が護摩木を焚き始め、和太鼓が奏でられます。 ほどなく、特別な「一日祈願」を申し込んだ個人、団体(講、会社など)の名前・願意が読み上げられ、納められた護摩札が燃え盛る炎にかざされます。 その頃和太鼓3台、鉦が激しく打ち鳴らされ、不動明王に捧げられる祈りの式は最高潮に達します。 最後には、希望する一般参列者が自分の鞄、財布などを護摩壇まで持ち運び、御火加地を受けます。

「護摩焚き」 お寺の方にこの儀式について伺うと、実は先々代のご住職が30年ほど前、お寺の賑わいを昔のように戻そうと古くから伝わる真言密教の護摩の儀式に多くの人を感動させるような独自の試みを始められたのだそうです。護摩の炎を大きくする、参拝者にわかりやすく、唱和しやすいように読経の速度を落とす、修験道に由来する法螺貝奉納を取り入れる、和太鼓奉納も佐渡のプロ集団、鼓童で習う、など。その方は「真剣に取り組んだ日本一の護摩だと思っています。」と胸をはって言われました。

お話によると、深川不動堂は本山と同じく、主に人々の所願成就のための祈祷を行う寺。墓地の供養を行わないお寺では、他に毎日写経・写仏の体験修行ができる場を設けるなど、人々に親しまれるための努力を続けてきました。長年のそうした取り組みが口コミで広まり、千葉、都内杉並方面などから通う新たな信徒さんの数が、お寺がこの地に定まった明治以来代々の地元信徒さんの数をはるかに上回り、今や全体の7割を占めているそうです。 外国人観光客もグループの大小を問わず歓迎され、英語版のパンフレットも用意されています。 特に通訳ガイドがついて、堂内脱帽、撮影禁止、祈祷中の私語厳禁などのマナーを守り、護摩祈祷の中途で席を立たぬなど配慮ある拝観をしてもらえれば有難い、とのお言葉でした。 私が最近案内したドイツ人の6人のグループには、先に訪れた京都の伝統に生きる古刹と現代的で積極的な運営が行われているこのお寺のコントラストが興味深かったようです。 護摩祈祷参列の後境内の開運出世稲荷、交通安全祈祷殿にも向い、おみくじの自動販売を試していました。また、ほどよい数の参拝者の流れが途切れることなく、若い人たちもお堂の前で手を合わせる姿に良い印象を持ったようです。時間があれば冷暖房完備の内仏殿の2階、4階にエレベーターで上がり、様々な仏像や中島千波画伯が6年の歳月をかけて完成された「日本最大級の天井画、『大日如来蓮池図』」も自由に拝観できます。

「天井画」 永代通りからお寺までの150mほどの参道には神仏具、真珠を商うお店、美味しい京漬物、粕漬の定食を供するお店、素敵なカフェなど小さいながら雰囲気のいい店が並び、参拝前後も落ち着いたひと時が過ごせます。また、江戸最大の八幡様と呼ばれる朱塗りで色鮮やかな富岡八幡宮は小道を抜けて徒歩2分です。

お寺のある江東区には東京オリンピック・パラリンピックではベイゾーンの競技会場の多くが集中します。アクセスも電車では、お寺まで徒歩2分の地下鉄東西線門前仲町駅は都心の日本橋、大手町から2、3駅、車もすぐ脇に30台分の駐車場も完備し、良好です。2020年に向けて、深川不動堂を日本の仏教文化に興味ある外国人に案内するスポットの一つに考えられてはいかがでしょう?

最後にお寺からのことづけを添えます:外国人の方のお賽銭は日本円でお願いします!


(木下 祥子)

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