魅惑のアラブの世界へようこそ

「シェイク・ザイード・モスク」 私が「アラジンと魔法のランプ」を読んだのはいつの頃だっただろう。物語の面白さだけでなく登場人物の話し方や服装、食べ物といった文化的な側面にとどまらず、物語が展開していく情景が何とも不思議で妙に引き込まれた記憶がある。それは勇敢な主人公の男性ときらびやかな衣装を身にまとった美しい女性、そして動物園でしか見たことのないラクダや砂漠、砂嵐、容赦なく照り付ける太陽、その一つ一つに胸がどきどきしたものだ。

アラブの春以来激動が続く中東ではあるが、常に胸の奥でいつか行ってみたいという思いに駆られていた。そんな私にアラブ首長国連邦(UAE)での仕事の話が舞い込んだ。首都であるアブダビに10日間滞在することとなり、10時間もの空の旅を経てついにその地に降り立った。

アラブ首長国連邦と言えば、世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ」(828m)が有名なドバイ首長国がよく知られているが、実は国土のおよそ8割を占めるのがアブダビ首長国であり、ドバイに負けないくらいの近未来的な高層ビル(しかも洗練されたデザインのものも多い)が建ち、その一方で美しい海岸や雄大な砂漠が広がり、町中を走っていると意外にも緑の多いのが印象的であった。(実はこの青々とした樹木はその根元を見ると黒いパイプが地を這っており、そこから水やりをすることで育っているらしい。土壌は南アジアの国々から運び込まれたという話だった。)

「アブダビのパトカー」 「アブダビ」はアラビア語で「ガゼル(ウシ科の動物)の地」という意味で、もともとは漁を行い、真珠を採るなどして生活をする部族の暮らす土地であったそうだ。砂漠が広がり作物もあまりとれず、栄養豊富なナツメヤシは貴重な食糧であったとのこと。それが石油の発見により現在のような豊かな国へと変貌したのだそうだ。

さて、わずか10日間の滞在ながら、印象に残ったことをいくつか挙げてみたい。まずは代表的な建造物の一つ「シェイク・ザイード・グランド・モスク」はとにかくうっとりとする美しさ。日が落ちる夕方に訪れたのだが、真っ白な建物と青い照明、スワロフスキーを装飾に使用したシャンデリア、花や植物をデザインした内装等、豪華絢爛の一言に尽きる。次に、町で出会う現地の人々の服装が「白」か「黒」であったことである。男性は白い「カンドゥーラ」、女性は黒い「アバヤ」を身にまとっている。しかしどれも同じかと思えば、よく見ると女性の服装は同じ黒でも使われている生地が少し違っていたり、美しい刺繍が施されていたりと、やはりファッションに気を使うところは一緒だなあと思った。また、空港に降り立った時からずっと不思議であったのが外国人の多さである。現地のガイドに聞いた話では人口のおよそ8割が外国人であり、ローカルな国民はわずか2割を占めるのみという。ちなみにこのガイドさんはネパール出身だそうだ。

「Emelieからのプレゼント」 さて最後に、宿泊していたホテルでの嬉しい出来事を紹介したい。ある日仕事から部屋に戻るとベッドの上に可愛い象が座っていた。白いタオルで作られた象は部屋を毎日クリーニングしてくれるEmelieからのプレゼント。あまりに嬉しくて翌朝「毎日お部屋を綺麗にしてくれてありがとう、今日もよろしくね」とメッセージを残すと、彼女からは「Good day, Ms. Junko. It is my pleasure to clean your room every day! Have a wonderful day! Enjoy your stay with us !(^^)! Your room attendant Emelie」と返事があり、そのあと2日位はやり取りが続き、そのメッセージを見るのが楽しく、仕事の疲れもふっとんだ。

こうして短い滞在を終えて帰国したのだが、連日35度を超える真夏日が続いていたアブダビとはうって変わって10月の日本は台風に見舞われていたこともあって肌寒く、成田に着くなりアラビアンビューティーのCAさんが「こんな寒いのならアブダビの方がずっとましね」と話していた。でも現実に引き戻された私にとっては早くも魅惑の地であるアブダビを恋しいと思えるのだった。


(米澤 順子)

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