イタリア語ガイドのライセンスを取得してからもう20年近く経ちました。
あれからイタリアの事情も随分変わりましたがイタリアの美しさに変わりはありません。
数年前久しぶりに南イタリアを旅したのですが、初めて訪れたアマルフィとラヴェッロの美しさは予想以上でした。
ラヴェッロは足の便が悪いものの、南イタリアを旅される機会がある方には是非お勧めしたい場所です。
イタリアのネガティブ・イメージ(「危険」「喧騒」)とは無縁の、のどかで明るく素晴らしい眺めの町です。
その後織田裕二主演の映画「アマルフィ」が上映されたので、タイトルに惹かれて見に行き「実際は映像以上に美しかった」と思うと同時にまた行きたくなりました。
最近イタリアからの観光客が増えお仕事の機会が増えましたが、日本を案内するガイドとしては、
こんな美しく歴史の長い国から来られるお客様に何をアピールしたら良いのかしら・・・といささか心細くもなります。
もちろん日本にも、北海道から沖縄まで美しいスポットはふんだんにあるとはいえ、
東京在住ガイドの私がメインに仕事をする場所はたいてい関東観光地、どうしても人の多さや商業ベースの面は避けられません。
頼みの綱のフジヤマも見えないことが多いし、京都でさえ「寺社は美しいが町並は建物がばらばらでひどい」と言われたり、
国立博物館の前で「私達の国には素晴らしい博物館が一杯あるので、どんな博物館を見てもそれほど感激できないと思う」なんて言われたことも・・・
「東京にはつまり遺跡はないのですね」などとがっかり(?)したような質問にも参ります。
それでも幸いたいていのお客様が日本を気に入って帰ってくださるのですが、
評価されるのは景色・建造物よりむしろ「町に秩序がある」「国民が親切」「伝統を重んじている」というような点です。
観光スポットをイタリアのそれと比較しても始まりません。
私は、日本が最先端技術を誇るトップレベルの国になっても、昔と同じ「神の祭事」を尊重して催行し続け、
自然も神として畏敬する国であること、折れた針を豆腐に刺して感謝し、
食べた魚や貝にも供養塔を立てる和の心などを、お客様にアピールできればと思っています。
そんな中、最近とても嬉しいことがありました。
新婚旅行のカップルのガイドをする機会も多いのですが、奥様が妊娠中の場合、とても気を使います。
もうお腹がかなり目立っておられる奥様を、公共交通を使って観光にお連れした時は、ラッシュアワーを急ぐ人がお腹にぶつからないかとハラハラでした。
去年秋に来られたカップルの奥様はまだ妊娠初期、しかも話を聞けば数年前に一度流産されているというではありませんか。
「お産は自然なことだから旅行は問題ないと医者に言われた」と奥様は涼しい顔でしたが、
箱根のバスの中ではまだおさまらない悪阻で気分が悪くなられるし、もちろん食欲はないし、私も食べ物が喉を通らない思いでした。
でもとても日本を気に入って下さって帰国後お礼のメールを頂き、仕事も再開して元の生活に戻ったと書いてあったので胸をなでおろしました。
ところがそれから3ヶ月後、奥様は体調を崩して緊急入院、持ちこたえられずなんと784gしかない男の赤ちゃんを早産したとのメール
、危険な状態に焦燥の毎日を送っておられるようでした。
私は「赤ちゃんは貴女のお腹の中で日本の神社もお寺もお参りして、
日本の空気を吸ったのだからきっと助かると信じています」とメールで励ましながら正直不安でした。
彼女の返信には「私達のために日本の神様に祈って下さい!」と悲痛な願いが・・・。でも先週、届いたのです。
「140日の入院後、4.1キロに成長した息子が元気に退院した」という喜びのメールが!
「医者から飛行機に乗って良いという許しが出たらすぐ息子を連れて日本に行きたい」という下りを読んで、嬉しくて涙が出ました。
彼女が息子さんと来日する時まで元気で仕事を続けていたいと思う今日この頃です。
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