金沢 伝統工芸編
今回の研修会では2日にわたって金沢を訪れ、兼六園や忍者寺などの観光地を見学しただけでなく、 石川県立九谷焼技術研修所の藤原先生にお話を伺ったり、加賀友禅工房の彩筆庵を訪れ、金沢の伝統工芸について学んだ。

九谷焼技術研修所
石川県立九谷焼技術研修所 1984年設立。現在までに約260名が卒業し、今も約40名の学生が在籍。まず2年制の本科があり、もっと学びたいという者には更に1年制の研究科が用意されている。
また自立支援工房が隣接していて、月々低料金で工房がレンタル出来る。我々が訪れたとき、房に男性1名、女性4名が創作活動中であった。
気に入った物があればその場で購入も可。

陶磁器の違いとその産地
陶器(土物):信楽焼(滋賀)、備前焼(岡山)
磁器(石物):九谷焼(石川)、有田焼(佐賀)、清水焼(京都)

九谷焼の製造工程
陶石採掘 → 粉砕 → 坏土(粘土)→ 成形 → 乾燥 → 素焼き → 下絵付け → 釉薬がけ→ 本焼き → 上絵付け → 上絵窯 →(錦窯:金銀箔を焼成)
「本焼き」までの工程は他の焼き物とほぼ同じであるが、九谷の特徴が現れるのはガラス質の絵具(和絵具)を使った上絵である。

和絵具
唐の土(鉛のこと。発色をよくする)、珪石(絵具の溶解に応じて配合)、白玉(ガラスのこと。透明度を作る)というベース原料を基に、 色によって異なる着色物質を加える。洋絵具と違い透明性のあるのが特徴。

生徒の作品 五彩
・青(緑):酸化銅(ベースの5%)
・紺:酸化コバルト(ベースの0.8%)
・黄:鉄(ベースの3%)
・紫:マンガン(ベースの1%)
・赤:洋絵具。更に水分、糊分を加えて使用する。

九谷の上絵つけ
呉須で絵の輪郭を描く → 水墨画のように濃淡を付ける → 絵の具で彩色。この時点ではまだ発色していない → 上絵窯。ここで絵具が見事に発色

九谷焼は時代によって窯が移転され、それぞれ図柄に特徴が現れている。加賀から金沢まで広い範囲に渡って窯が興ったのも九谷焼の特徴のひとつ。

古九谷(約330年前)
狩野派の名匠・久隅守景の指導によったといわれ、山中温泉の奥地に窯跡がある。花鳥風月を画材に五彩を使い、大胆な構造、のびのびとした自由な線描き、力強い豪快な味わいが魅力。
木米(もくべい・180年前)
古九谷廃窯約80年後、加賀藩営で金沢に春日山窯が開窯。京都の文人画家青木木米の指導により、前面に赤を施し、人物を主に五彩を用いて描きこんでいる、中国風のもの。
吉田屋(約165年前))
赤を使わず模様の他に小紋を全面に塗り埋めた重厚さのある作風。
飯田屋(赤絵・約150年前)
筆舌に尽くしがたいほどの赤絵細密描画。赤で綿密に人物を描き、その周りを小紋などで全体を埋め尽くし、所々に金彩を加えている。
庄三(しょうざ・約135年前)
古九谷・吉田屋・飯田屋・金欄手の全ての手法を間取り方式で取り入れ、これらを洋絵具を用いて細密に描きこんだ彩色金欄手。明治以降の産業九谷の主流になった。
永楽(金欄手・約120年前)
永楽和全による京焼金欄手手法で全面を赤で下塗りし、その上に金のみで彩色した豪華絢爛な作風。

九谷は窯元、問屋、絵付師が分業体制を取っているということで、成形から本焼・絵付けまで一貫した製造体制を取っている他の地方と違う特色がある。
即ち問屋が窯元より皿等の素地を買い入れ、絵付師へ発注、消費者へ販売するといった体制である。

(金 友彦)


加賀友禅工房彩筆庵での説明 加賀友禅の製作工程
1.図案
作家が、着る人の年齢や着姿などを想定しながら、着物と同じ大きさの薄い型紙に鉛筆で図案を描く。花鳥山水を基調とした絵画的で細かな模様が加賀友禅の特徴。
2.下絵
写し台と呼ばれる大きなガラス製の机の上に図案を描いた紙を載せ、下から光を当てて、青花という染料と細筆で図案を写しとる。
3.糊置き
和紙に柿の渋を塗って作った渋紙製の糊筒を使って、餅米で作った固めの糊を下絵の線の上に置いていく。この糊は、塗った染料が模様の外に滲み出るのを防ぐことから 「防滲糊」と呼ばれる。糊置きは、友禅を作る中で最も熟練を要する工程といわれる。
4.彩色
四角い穴の開いた「彩色机」の下から、電熱器で生地を暖め、塗った色を乾かしながら作業を行なう。藍・周防・黄土・草色・古代紫からなる「加賀五彩」を基本とした、 渋く落ち着いた色合いが特徴である。現在、染料はすべて化学染料を用いている。
5.中埋め
模様を糊で埋める工程。大きな糊筒に軟らかい糊を入れ、模様の部分に隙間ができないよう完全に覆う。水分や熱で糊が軟らかくなるのを防ぐため、糊の上におがくずや米糠をふる。
6.地染め
職人の腰の高さに生地をピンと張り、鹿の毛でできた「鹿刷毛」を使って、色ムラが出ないように手早く一気に「ふき染め」する。
7.蒸し
生地を大きな蒸し箱に入れ、40分から1時間前後蒸す。蒸すことで染めた染料が生地に定着し、模様も美しくなる。
8.水洗い
糊をすべて洗い流す工程で、「友禅流し」と呼ばれる。10度前後の冷水に1時間ほど生地を浸し、ふやけた糊をへらやブラシで洗い流す。以前は自然の川で行なわれていたが、 現在は地下水をくみ上げた人工の川で行なうのがほとんどである。

加賀友禅の価値
模様の輪郭に見られる白く細い線は、糊で保護されていた白い生地が浮かび上がったもので、糸のように白く細いことから「糸目」と呼ばれている。とりわけ加賀友禅においては、 糸目が「一定の細さで美しく描かれている」ものほど価値が高いといわれる。
1枚の着物は通常、10人程度の職人の手を通り、3〜4ヶ月という期間をかけてできあがる。

(川崎 明仁)


前の記事へ バックナンバーリストへ戻る 次の記事へ


トップページ

Copyright(C)2001 JFG All Rights Reserved.