今回、関東地区の建築研修のバスツアーに参加した。 講師は、建築家の森一朗先生。最近オープンした丸ビルからスタートして、
新宿新都心、竹芝再開発、臨海副都心開発お台場、横浜臨海再開発みなとみらい21とまわった。都市再開発の現状と実例、
地震国日本における地震対策、剛構造と柔構造、制震構造と免震構造、容積率と空中権、古い建築物の一部保存の動きなど興味
深いテーマで研修を受けた。個々の建物の名前や開発の背景の説明はそのまま役に立つ知識だけに、良い勉強になった。それに
も増して興味深かったのは、目には見えない開発の考え方や成立の経緯だった。例をいくつか挙げてみる。
都庁舎から見た三井ビルと住友ビルの対比
二つの隣接したビルは同じような敷地面積と高さをもちながら、ベースにある考え方が対照的だという。三井ビルの方は、平凡に
四角い建物で床面積も広くとれ、テナントも大手企業がまとめて広いスペースを借りるので安定的。また、1階部分に広場を配置し、
周辺環境にも配慮している。一方、住友ビルの方は、形が奇抜な三角形で、床面積も小さめになるので、テナントは小さい会社が多く、
結果として入れ替わりも頻繁で、収益効率が良い。1階部分には特別な施設は何も造らず、地下には大ショッピングセンターを配置
した。関東資本と関西資本のビジネススタイルが対照的に反映していて面白い。
地域開発に長い時間がかかる日本の実情
日本では、再開発のため土地を収用しようとしても、信じられないくらい長い年数がかかる。赤坂アークヒルズは森ビルが20年以上
かけて再開発を実現した。また、アイランダーパークタワーの再開発には、なんと25年かかったという。これは、「公共の利益」と
「私権の制限」のバランスの問題だろうが、外国人には理解し難いことだと思う。
明治神宮の森の生い立ち
いままで自然の森だとばかり思っていたが、これは明治天皇崩御の折、全国から寄進されたものが大きく育ってできた人工の森だという。
また、横浜の山下公園は、関東大震災の時の瓦礫を埋めたてたものという。
同じガイドをするのでも、個々の事柄の説明に加えて、こうした背景や歴史が説明できれば、素晴らしいと思った。今まで各種の研修に
参加して、立派なガイドをするために知識を一所懸命積み上げてきたつもりだったが、よく考えてみると、日本を訪れる観光客が望んで
いることは、知識の羅列ではなく、その国の文化の根底に流れるものを理解することかと、ふと気がついた。 相手の興味にあわせて柔軟
に対応できるガイドにならなければ・・・。この日、地震対策で勉強した剛構造から柔構造への転換は、自分の頭脳と行動にこそ適用しな
ければならないと思った。
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