今年6月22日富士山が世界文化遺産に登録された。「もっと早くから登録されているべき」との選考委員のコメントもあったが、
富士山には「自然遺産」や「文化遺産」といったジャンルを超えた魅力があるために逆に時間がかかったのではなかろうか。
古来より富士山は信仰の山として登られ、現在でも多くの登山者が絶えない。どの山にも言えることであるが、山頂から見るご来光は格別で、これを目当ての登山者も多いだろう。
しかし、富士登山の醍醐味はご来光だけではない。中央の噴火口の周りを1周する「お鉢巡り」と呼ばれる天空散歩がある。
富士山周辺を1周ドライブすれば丸1日かかるかも知れないが、山頂を1周すれば徒歩約1時間半ほどである。
道のりの半分以上は外輪を通るため、ほぼ360度全ての下界の展望をこの1時間半の散歩で堪能できる。
ただし天気が良くとも夏場の日中は雲海や霧に遮られる地域が多いので、全てが良好に見えるのは稀である。
特に海に面する静岡県側は水蒸気が発生しやすいためか霧や雲海に覆われやすい。
富士山の標高3776mは誰でも知っている数字であるが、これは山頂南側の最高峰剣ヶ峰(けんがみね)の高さである。
「剣ヶ峰」或いは「剣ヶ岳」等「剣」のつく山や峰は多いが、その名の通り剣の先のように鋭い形をしている場合が多い。
富士山の剣ヶ峰もその鋭く急峻かつ滑りやすい斜面を登らなければならず、日本一高い所へ到達する最後の難所である。
この剣ヶ峰には2004年10月に無人化となった富士山測候所がある。ここには1964年に設置され、
気象衛星にバトンタッチするまで日本の台風観測を担ってきたレーダードームがあったが、1999年に運用を終了し、2001年秋に撤去された。
写真は2001年夏に撮影したもので、レーダードームと観測機器は現在山梨県富士吉田市の富士山レーダードーム館に展示されている。
他にも測候所近くには富士山頂の高さと気象条件を利用したサブミリ波望遠鏡が1998年から2005年まで運用されていた。
このように気象衛星開発を待つ間の繋ぎとして日本を台風から守り、或いは富士山頂の地の利を生かした天体観測がかつて行われていた点にも世界文化遺産としての価値があるのではないかという気がする。
測候所からわずか時計回りに進むと、大沢崩れという崩落地帯がある。その頂上は危険なため一部通行できなくなっている。
朝霧高原付近から見る富士山のど真ん中が大きくえぐられているように見えるが、まさにそれである。山頂から見下ろす大沢崩れもまた恐ろしくなるような光景である。
何年か前ある登山ガイドが「このまま崩落が続けば将来富士山の形が変わるだろう」と言っていたが、世界遺産として別の意味で保護すべき対象ではなかろうか。
最後に富士登山と言えばゴミ問題も避けて通れないが、その1つの対策として山頂に着いたら、ペットボトルの飲み物は全て飲み干してキャップをしめて持ち帰ることを勧める。
下界に帰った頃には容器の中の薄い空気は相対的にかなり高い下界の気圧に押され、踏み潰すことなくペチャンコになってかさばらない
(ただし固い材質のペットボトルは効果が少ない)。「ゴミは各自持ち帰れ」という富士山からのメッセージとも取れる現象である。
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