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観戦ツアー顛末記

スペイン語の新米ガイドとして添乗した、メキシコからの観戦ツアーのお客さまは総勢約100名。バス3台を連ねてのツアーでしたが、私はそのうち38人のお客様を担当しました。
ワールドカップ観戦ツアーを担当するガイドにとって最も大きな課題だったのは、何といってもお客様を時間に間に合うようにスタジアムまでお連れし、試合終了後は無事に宿泊先のホテルまで送り届けるということ。何万人もの観客でごったがえす中、お客様を迅速かつ問題なく誘導できるか、 というところが最大のポイントでした。

さらに、私が担当したお客様はJRパスを使っての移動だったため、各開催地往復の大部分が自由席となりました。
JRパスは、日本以外の政府発行のパスポートを持ち、日本に短期滞在する外国人が一定期間、一定金額で日本中のJRの列車に乗り放題という便利なきっぷですが、難点は、日本に到着してからJR主要駅で、引換券とパスポートを提示して初めて発行されるということ。試合直前に団体で来日したのではとうてい指定席がとれません。

試合当日、既にテレビや新聞などでもお馴染みになった各国サポーターと同じように、メキシコ人のお客様たちもチームカラーのシャツ、フェイスペインティング、国旗マントのいでたちで集合。また、メキシコならではのソンブレロやルチャリブレ(メキシコプロレス)のマスクをつけている方もあり、実にカラフルで壮観です。
バスで東京駅に着くと、出勤するサラリーマンに向かって「メヒコ、メヒコ!」とアピール。

上越・東北新幹線は、列車の種類や車輌数ごとに乗車位置がかわるというややこしいホームで、本当に自分たちが目指す車輌の停車位置にいるのだろうか、と新米ガイドにとってはまた心配の種。 自由席であれば尚更で、駅員さんに何度も確認します。
入ってきた列車は無事に私たちの前でぴたりと止まり、それっとばかりに乗り込みました。数人が席を確保することができませんでしたが、やがて車中はテキーラで盛り上がり、パーティー 会場と化して全員総立ちとなったため、席がないお客さまも不快な思いはされなかったようでした。

駅に到着する度に乗り込んできた人は、デッキや通路にまで溢れて大騒ぎしているメキシコ人を目にし、必ずぎょっとして立ちすくみます。
「本日はワールドカップ開催のため、外国からのお客様が多数乗っています。ご迷惑をおかけしますが、ご理解とご協力をお願いいたします。」
というアナウンスが何度も流れました。はらはらしているのはガイドだけでなく、JRの乗務員さんも同じかそれ以上だったでしょう。乗り合わせた日本の乗客の中には「いながらにしてこんな雰囲気が味わえるなんて滅多にあることではないから。」とおっしゃってくださる方もありましたが。

無事到着駅に降り立った緑のサポーターはさらに大興奮。2試合目の仙台駅では歌い、踊りながら改札を通り抜け、地元の方々が笑顔と拍手で迎えてくれると、本当にうれしそうでした。どの駅でも、駅員さん達が親切に誘導してくださり、本当に助かりました。1試合目の新潟スタジアムに行くために下車した駅では、ビデオカメラのテープを買っておくのを忘れて慌てていたお客様のために、駅長さんが自らそれを買いに走ってくださり、お客さまは日本人の親切さに感動されていました。

各試合会場の駐車場とスタジアムは、距離こそあるものの見通しがよかったため、試合後はお客様各自でバスに戻ってきてもらうことにしました。なまじガイドが付き添って歩くより、その方が迷子が出ないと判断したからです。
試合終了後、こちらが拍子抜けするくらいすみやかに全員揃ったのですが、チームは勝ったはずなのにお客様は皆むっつりと下を向き、黙々と肩を落としてバスに帰ってこられます。何か問題でも起きたのではないかと不安になり、お客様のひとりにどうしたのか恐る恐る伺ってみると、なんと「応援づかれ」とのことでした。

応援に全精力を使い果たし、何としても座って帰りたいお客様を東京行き臨時便の自由席に全員座らせることができ、ほっと一安心。新潟発二階建てMAXの階段やデッキは、またしてもパーティー会場に。往路よりトーンダウンしているものの、酒量は上がっているようで、車内販売のビールがあっという間に売り切れてしまいました。
また、宮城からの帰りには、何かのはずみで非常停止ボタンが2回も押され、警官が乗り込んでくる騒ぎもありました。

行く先々でお騒がせし、いろいろな方のお世話になったメキシコ人サポーターご一行でしたが、日本にとても良い印象を持たれたようで、新米ガイドも何とか面目を施すことができたようです。

(HACHA)

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