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外国人から教わった日本再発見

寺田 一彦さん ガイディングの様子
「プロの通訳ガイドとしてお客様と接する時、当然のことながら矢継ぎ早やの質問攻めにあう。
お客様にしてみれば、最近の為替レートで換算すると決して安くない料金を払ってガイドを雇っているのだから、日本について、或いはまた素顔の日本人や、その生の声を聞けるだけ聞いておこう、と好奇心旺盛になるのも 無理はない。
Why ? How ? What ? そして何より How much ?
さまざまな職種の平均的収入、土地、家、車、家電、税金、年金、福祉などなど、あらゆる物の値段が興味の 対象となる。

しかし、そういうお客様との一期一会は、私にとって最高の喜びでもある。
彼らの五感を通して私は今までどれほど自国のこと、自分のことを教えられたことか。そしてこの日本の素晴らしい文化、歴史、芸術、愛すべき人々のことを再発見できたことだろう。

私がこの仕事を始めた 1970 年代は、まだ身近に日本の伝統や習慣等が残っており、それらを外国からのお客様に紹介、解説するのが面白く、楽しみだった。たとえば冠婚葬祭、近所付き合い、嫁と姑、お客様へのもてなし、日本式住居での 生活の様子、サラリーマンの生活、高度成長期の日本の産業・・・。
また、プライバシーに入り込むのが好きなタイプのお客様へは、その好奇心をくすぐるため、自分の親、兄弟、家族、親戚のことを包み隠さず話をする。妻とはどこで知り合ったか、どんな物を家では食べているのか、離婚率、出生率、労働者の最低賃金、結納金は値切ったり払い戻したりできるのか?
お客様のほうもまた、真顔でこんなアドバイスをしてくれたものだ。新婚当時の私に、親との同居はやめたほうが よい ― Two women never can share the same kitchen― 。或いはまた、私はよく喋るので、隣人には気をつけた 方がよい― They can hear grass growing! ― などなど。こうしたことを通じて、私はユーモアの大切さも教えられた。

通訳ガイドのもう一つの楽しみは海外からのお客様と日本の津々浦々を旅行できることだ。彼らの新鮮な反応が伝わってきて、日本人同志での旅行では決して味わえないもう一つの日本が見えてくる。異文化をもつ者同士が 一緒に旅をすると、まさに旅行を二倍楽しむことができる。
特に、有名な観光スポットへの通り道にある何げない漁村や農村に立ち寄るのは楽しいものだ。なぜなら自分が異国へ旅する時、観光スポットよりそういった所に興味をそそられるからである。奥の細道を一ヶ月かけて欧米の お客様と旅した時、立ち寄った村々、夏祭りは私にとっても大変想い出深いものとなった。

さらに、通訳ガイドのもう一つの醍醐味は、京都の東寺、奈良の法隆寺、東大寺、名もない神社仏閣などの歴史的遺産を幾度となく訪ねることができるところにある。東大寺大仏殿の前に立つ時、当時の権力者の何があれほどの事業を成就させたのか、何が彼らを突き動かしたのか、当時の色々な層の人々に想いを巡らす時、いかに私たちの住む日本が歴史的、文化的にも遠くはインド、中近東諸国、アジア諸国,中国、そして韓国、北朝鮮の祖先の恩恵を享受してきたのかと思う。

通訳ガイドたる者、自分の言葉で海外からのお客様に感謝の念を込めてご紹介していかなければならない。それには常に、グローバルかつローカルな視野 ― Global and local mind ― で日本を分析理解することが必要ではない だろうか。
これからも自国を私流に GLOCAL mind でとらえてお客様に接していこうと思う。

(寺田 一彦)

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