観光立国は通訳案内士にとって福音だったのか?
今年の9月に、JFGは総務省行政評価局の訪問を受けました。
観光立国政策が打ち出されてから10年がたち、昨年には2016年までに訪日旅行者の目標を1800万人にするという新しい数値目標が設定された状況にあって、外国人旅行者の受け入れの一翼を担う通訳案内士の業界の現状と通訳案内士の就業状況を調査し、関係省庁に改善勧告を行うとのことでした。
通訳案内士の就業状況については、2008年に観光庁が調査を行ったが、その後観光立国政策によってどう変化したかを知りたいとのことで、JFGの就業参考表を基に2012年のJFG組合員の自己申告による就業日数を抽出し資料を作成しました。
その結果は、51日以上稼働した人の割合は34%、101日以上では12%で、5年前の観光庁の調査の時と比べて51日以上では全く同じ、101日以上では3%減少していたのです。
もちろん2012年は前年の東日本大震災の影響で私たちの最大の顧客である団体ツアーの多くがまだ日本に戻ってきていなかったこと、そして中国・韓国からも領土問題が原因で訪日客が激減したという悪条件がありましたが、 それにしても、観光立国で私たちの就業機会が改善されたとは思えないとの日頃からの感触が数字でも示されたことになり、愕然としました。
そうした現実を無視したまま、相変わらず政府は増大する訪日観光客数に比べて通訳案内士が不足しているとの見解を基に、地域限定通訳案内士を設置し、それがほとんど活用されていないことを忘れたかのように、2011年には地域活性化総合特別区域法の中に総合特区通訳案内士を組み入れて、簡便な通訳案内士の増員を図ってきています。
しかし現実には訪日観光客の約60%を占める中国・台湾・韓国からのツアーの90%以上が無資格ガイドを使用していること、そしてその他の国からの旅行者のうち通訳案内士を雇用したいと考えている人の数はおそらくその半数にも満たないことを考慮すると、「訪日旅行者数÷通訳案内士数=圧倒的に通訳案内士不足」という政府の統計解釈が正しくないことは明らかです。
このような状況の中、2020年の東京オリンピック開催が決定しました。日本の魅力を世界に広めるまたとない機会と期待しつつも、またもや歪められた統計解釈のもと、新ガイド資格が設けられる可能性が高いことも否めません。質の高い有資格者を有効活用してもらうように、早急に関連官庁に働きかけていく必要があります。またすでに総合特区に決定した奈良公園や、今後同様の動きを見せる可能性のある関西広域連合にも有資格通訳案内士を活用してもらうためのアプローチを始めています。どれも容易な道ではありませんが、観光庁の来年の予算に、はじめて無資格対策のための予算が組み込まれ、観光庁が無資格情報を収集し始めたことは 、これまでのJFGの地道な活動の成果だと言えます。通訳案内士業界は今、ピンチをチャンスに転換していくための行動を起こす正念場を迎えています。
(松本 美江)