サッカー用語、日韓の違い
ワールドカップもいよいよ佳境です。今回は日韓共催ということで、いろいろと両国の比較がされていますが、ここではサッカーに関連する言葉について日本と韓国の違いのいくつかを紹介します。
まず競技の名前から違います。日本ではもちろん「サッカー」ですが、世界ではそれよりも「フットボール」と呼んでいる国のほうが多いことはわりあいよく知られています。では韓国では?
韓国では漢字名の「蹴球」(韓国語の発音は「チュックー」)です。もちろん「サッカー」と言っても、理解してくれる人は多いと思いますが、韓国での正式名称はあくまで「蹴球」です(ちなみに中国では「足球」です)。このように日本ではもうほとんど使わない漢字の競技名を韓国ではそのまま使っている例はほかにも、籠球(ノング=バスケットバール)、排球(ペグ=バレーボール)などがあります。ついでに言えば、韓国語のスポーツ名で「力道」(ヨクト)というのがありますが、これは重量挙げのことです。
さて、サッカーの競技中に使われる用語は、これは日本でもそうですが、韓国でもほとんどが英語の用語をそのまま使っていますから、日本で使っているサッカー用語をそのまま言ってもたいていは通じます(ただし、元は同じでも日本式発音と韓国式発音の違いはありますから最初はかなり戸惑うかもしれませんが)。
それでも、競技名に漢字名を使っているだけあって韓国では、日本ほどカタカナ言葉一辺倒ではなくて、漢字言葉もかなり使われています。たとえばフォワードの選手のことは「攻撃手」(コンギョクス)、ディフェンスの選手は「守備手」(スビス)と呼ぶのが普通ですし、日本でいう「サイド攻撃」は「側面攻撃」(チュンミョンコンギョク)と言います。また、日本では以前「自殺点」と呼んでいたオウンゴールは韓国では「自殺(チャサル)ゴール」または「自責(チャチェク)ゴール」です。
いわゆるカタカナ言葉のサッカー用語でも、日本ではほとんど聞かないのに韓国ではよく使う言葉もあります。それは「ハリウッドアクション」。何のことかというと、実際にはファウルなど受けていないのにファウルの判定を得ようとあたかも受けたかのように大げさに倒れ込むなどの演技すること。国際的には正式には「シミュレーション」、自分から倒れ込んでいくという意味で「ダイブ」とも呼ばれますが、これを韓国では普通「ハリウッドアクション」と言っています。もちろん俗称に近い言い方で、英語圏でもこの意味で使うのか(どうもそれほど一般的には使われ ないようです)、韓国ではいつ頃から使うようになったのかよくわかりませんが、でもなかなか感じはよく出ている言葉です。
サッカー用語ではありませんが、外国人選手の名前の発音でも日韓で違う場合があります。その代表的な例は、ブラジルの誇る世界的な選手であるロナウド選手とリバウド選手。日本ではこう呼びますが、韓国ではそれぞれ「ホナウド」「ヒバウド」と呼ばれています。ブラジル選手のRと表記されている文字を日本ではラ行に、韓国ではハ行に発音しているわけですが、最初に聞いたときには誰のことなのか、わかりませんでした。でも実際にブラジルではハ行にかなり近い発音になるようです。
最後に応援するときの言葉を紹介しましょう。日本ではサッカーに限らず、応援したり励ますときには「頑張れ!」と言うのが決まり文句のようになっています(このことで日本語の語彙の貧弱さを指摘する人もいます)が、韓国で もこの「頑張れ!」に相当する言葉があります。それは「ファイティング!」(ただし韓国語にはFの発音がないため、実際には「ホァイティング」または「パイティング」のような発音になります)です。
もちろん元は英語の fighting ですが、これは本当によく使う言葉で、代表チームの試合では決まって「大韓民国(テハンミングク)、ファイティング!」の大合唱が繰り返されますし、ほかのスポーツの応援でも、また日常生活でもたとえばこれから大学入試を受ける人に対しても、病気と闘っている患者を励ますときにも、本当にさまざまな 場面でこの言葉はよく使われます。
もちろんこれは韓国製英語で、「英語では fighting を命令形のように使うことはないのだから、こんな間違った使い方はやめるべきだ」と言う人もいます。でもこの「ファイティング!」、むしろ最近になってますます普及してきていて、以前はどちらかといえば若者たちの言葉という感じだったものが、今では年配の人も普通に使うようになってきています。英語が上手な金大中大統領でさえ「韓国チーム、ファイティング!」と言って応援しているくらいですから、もう元の英語からは完全に離れて、韓国語として定着したと言っていいでしょう。どうも韓国人はこの「-ing」の付く言葉から躍動感のようなものを感じて、とても気に入っているようです。
この「ファイティング!」の大声援を受けて、韓国チームも、日本チームと同じく史上初めて決勝トーナメントに進出しました。これには選手や監督の力はもちろんですが、やはり地元の大応援団の力も大きい気がします。この勢いで、日本と韓国ともに、このワールドカップのあともますますサッカーが盛んになることを!
(斉藤 覚)