東京都内touristyでないところ
行程の決まっていないFIT(個人客ツアー)ではお客様のリクエストをベースにご案内しますが、 都内のビジネス街ど真ん中に宿泊中のお客様からは、「ここはビルばかり。人の生活が見られる場所を見たい。」というリクエストをよくいただきます。
東京で人の生活の見られる所っていったい・・・どこでしょう?
私の目線から言ってしまうと、それは江戸川区や江東区であろうと思ってしまうのです。
世田谷区や大田区でも良いでしょう。私は常に新興住宅地で育って来ました。伝統的な木造家屋になど住んだことはありません。○○団地、○○ハイツ、○○ヶ丘と名付けられた場所に住み、スーパーで買い物をする。 道端にはランドセル姿の子供達が行き来し、そして帰宅すればゲーム機片手に遊びに出かけたり、塾のバッグに背負い変えて中学受験に備えたり・・・
それが典型的な東京都内の普通の家庭の暮らしでありましょう。
が、そんなものをお客様は想定していないでしょう。
彼らの心の中の思い、叫びは恐らく「古き良きオールドトーキョーがホテルの周辺ではないどこかにまだ残っているはずだ!」であろうと思うのです。
が、この言葉は要注意。その方の日本に対する知識や情報、イメージによって「どこで何が見たい」のかが違います。
ここで気を付けなければいけないのは、ある人にとってそれは「浅草」かもしれないのです。都内最大の観光地ですが、それを望む人もいます。
またある人には「谷中」なのかもしれません。谷中銀座をぶらぶら歩いたり、寺町を覗いたりすることで下町を感じる人がいます。
ディープなものを求めていると感じられる時には、私は「人形町」か「本郷三丁目」にお連れします。
特に人形町は銀座、日本橋からすぐ近くにも関わらず、古い店舗や家並みが残っているので驚かれます。
私のお気に入りは「うぶけや」さん。天明3年(1783年)創業の刃物屋さんです。木造のお店の造りも素晴らしいし、 まるで小さなミュージアムのように壁に古い刃物が飾られ、ガラスのショーケースには、新しいピカピカの包丁が並んでいる素敵なお店です。 そして「岩井つづら」さん。こちらも江戸時代から続くつづらのお店です。全国でも珍しくなってしまったつづらを店内で作っています。 運がよければ作業を見させてもらえます。
料亭が並ぶ路地に入れば、京都とはまた違う風情を感じます。
本郷三丁目は更にディープな奥の手ですので、お客様を選んでお連れします。坂道を登ってでも古い家屋や暮らしが見たいという特別なお客様向けです。
金魚坂や菊坂を歩き、樋口一葉ゆかりの井戸などを見ます。五千円札は欠かせません。
空襲の被害を受けていない、細い、細い道。くっつき合った古い木造の家々。ハイヤーのドライバーさんは、怖がって本郷通りから一歩も動こうとはしません。ぐるりと回って本郷通りまで歩き通せるだろうという方限定です。
(水澤 紀子)