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通訳ガイド体験談 < 3年ぶりのツアー、たまらん! >

2023.3.15

私は昨年2022年9月に、ガイドに復帰しました。3年ぶりの現場です。コロナ禍では、平日の昼間は自治体のコールセンターでオペレーター、夕方は体力づくりのウォーキング、夜は企業のリモート通訳をしながら、週末はJFGのオンライン研修の録画版を見て、メモを取ったり調べものをしたりして、ガイドへのモチベーションを維持してきました。そんな中、7月末に旅行会社から連絡が来た時は、迷わず、OKの返事をしました。ツアー場所は日光東照宮。ゲストはヨーロッパからの団体。もう楽しみしかありません。

 

まず、準備です。
本番まで1ヶ月半(もある!)。私の日本語は栃木弁。訛りで、つい笑いを提供してしまうのですが、英語はリモート通訳で、対面よりもハッキリ話す事と、顔が見えない相手の声に耳を集中させる事を意識してきたので、慌てる事はなかったです。その一方で、ガイディングは基本に戻ろうと決めました。約10年前に受講してから、お守り代わりに持っているJFG新人研修のテキストの他、データ化していた過去の日光ツアー前チェックリストやツアー後のレポート、スマホの写真を確認し、「こんな事をやっていたね」とすぐに記憶が戻ってきました。スクリプトは、この3年間で新たに知った事や、実際に日光の街を歩いて気づいた事をストーリーに入れたいなぁと思い、はじめから作り直しました。ツアー前には本番を想定して、スマホにチェックリストとスクリプトを保存し、下見に行きました。現地では、約20人が集まれる場所を確認し、動線上で時間を計りながら、スクリプトをつぶやき、気になる事はメモをして、本番に向けて改善しました。

 

(上から見た日光街道)

 

正直、緊張でほとんど眠れないまま朝になりました。日光市内の天気予報は曇り時々雨、気温30℃。季節柄、雷様(栃木では、”らいさま”と呼ぶ)も来るかもしれません。通気性の良い服装とウォーキングで履きなれた靴を選び、いつものバックパックには、旅行会社から預かった資料やクーポンの他、折り畳み傘とタオル、麦茶とレモン飴を入れました。日焼け対策の帽子は、マスクで表情が見えにくいのに、頭も隠れたら怪しい人になってしまうので、家に置いていきました。JR宇都宮駅からの電車は空いていて、車窓から見える山々には霧がかかっているものの、JR日光駅の改札を出ると蒸し暑く、ハイキングや自転車ツーリングに行く人達の楽しそうな会話を聞きながら、私は麦茶を飲んで深呼吸。「今日はゲストに楽しんでいただき、私も楽しもう!」と、自分に言い聞かせて、レモン飴を口に放り込み、集合場所である日光東照宮の五重塔前に向かいました。

(神橋)

 

さぁ、ツアー本番です。
事前情報によると、ゲストのほとんどが高齢者。団体なのに、都内から各自移動の現地集合&解散だそうで、どこから現れるのかわかりません。ツアー名の書かれたバナーを高く掲げ、石鳥居や二荒山神社方面に姿勢を変え、「もしかして?」と思った方達には、こちらから笑顔でアイコンタクトをして、無事に全員集合。皆様、とても元気で明るいスタートになりました。そして、「Welcome to Nikko. My name is Yuko…」と話し始めると、一気に視線が集まりました。心の中はドキドキです。一方的に長い話をするのではなく、会話のキャッチボールをしたいので、「Now, you are mystery hunters. Let’s find something hidden! Are you ready to go?」と言った瞬間に、皆様、目をキラキラさせながら、「Yeah!」という反応。つかみはバッチリでした。ちょうど境内は空いていて、三猿以降、各ポイントで立ち止まり、ミステリークイズ大会をして、ゆっくり写真撮影もできました。御水舎は使用中止だったものの、屋根の角が欠けている部分を真下から見られたし、陽明門をくぐり、眠り猫まで行ってから、「まだ元気いっぱいチームは、この先の奥社までエクササイズコース、ドラゴンの声を聞いてみたいチームは、私についてきてね」とオプションを選べるように工夫しました。鳴龍のある本地堂(薬師堂)では、受付の僧侶に人数を伝え、使ってよい下駄箱の場所を確認し、説明は外で済ませ、階段が急で滑りやすい事をゲストに念を押しました。安全を守る事は、何よりも大切です。それまではしゃいでいた雰囲気が静かになり、雨が降らなくても、湿気のおかげなのか、龍の声はとても響いていたため、ゲストの中には「なんだか不思議で、心がきれいになったみたい」とおっしゃる方もいました。その後は、外に出て靴を履いた所でツアー終了。残った数名から「どこか近くでコーヒーを飲めるカフェはあるかな?」「オススメのお守りはどれ?」「ステージに座っていて、緑色の植物に覆われた人形(憾満ヶ淵の化地蔵)がこの辺にあるみたいだけど、どこ?」など、いろんな質問が出たので、ひとつずつ答えながら、各自解散となりました。個人的にはちょっとさみしかったのですが、日本については、「どこに行っても、みんな親切」「食べ物がおいしい」「ゴミが落ちてないので、清潔だね」など、今回のツアーについては、「ガイドブックに載っていない話がおもしろかった」「自然いっぱいの場所で、ローカルガイドに会えるのも嬉しかった」など、ホッとする感想をいただきました。

どんなツアーも毎回、いろいろな国や地域からゲストが集まり、ドキドキ&ワクワクで何が起こるかわからないからこそ、この仕事はやめられません。本当は人前で話す事が苦手な私でも、それを忘れてしまうほど、ゲストとの会話が大好きです。また各地で、ツアー中に通訳案内士の皆さんとすれ違い、情報交換できるのを楽しみにしています。

(阿久津 裕子 英語 栃木県)

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