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【通訳ガイドレポート】研修会レポート < 「天下のお茶どころ・宇治のお茶」~伝統を守る・未来につなぐ~ >

2024.4.15

茶道体験に抹茶ラテ、抹茶アイスなどはインバウンドにも大変人気で、日本の代名詞ともいえるアイテムです。

その抹茶や高級緑茶の玉露と言えば、まず宇治を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。お茶の本場である宇治で、その魅力と秘密についてより深く学ぶため、研修が開催されました。

 

2023年8月22日、午前に京都府作業研究所、午後は堀井七茗園(ほりいしちめいえん)を訪問しました。

 

京都府作業研究所は、JR宇治駅からタクシーで10分ほど、茶畑の点在する谷間の川下集落から竹林の丘を上ったところにあります。1919年京都府立農事試験場に設置された茶業部を前身に、1924年に設立された、ちょうど今年100周年になる歴史ある研究所です。2018年に完成した建物はすべて京都府産の木材を使われ、木のぬくもりのある素敵な建物です。

主任研究員の大串卓史氏に研究所の概要や設立の目的などをご説明いただいたあと、併設の茶園および製茶工場を見学させていただきました。

併設茶園の面積は約2ヘクタール。茶畑独特の茶樹の畝をよく見ると、形が微妙に違うものがあります。

丸みを帯びたカマボコ型のもの、平たいヨウカン型。それは摘採機の種類によってこのような違いが出るのだそうです。

  

(写真左:カマボコ型、 写真右:ヨウカン型)

 

また、手摘み用の一見伸び放題の生垣のように見える畝もあります。

宇治茶を高級たらしめているものは、「覆い下栽培」という宇治に特徴的な茶樹の栽培法にあります。春先から茶樹に二重の覆い(寒冷紗という黒い化繊布)をかぶせ、その下で伸びた葉を摘みます。そのことで苦みの原因となるカテキンの生成がおさえられ、光合成に必要なクロロフィルが増えます。そのためより旨みを感じられる、緑色の鮮やかな抹茶が生まれるのです。

 

製茶工場では、抹茶と揉み茶(煎茶・玉露)の製造工程を見学いたしました。

どちらも同じ茶葉から生まれていますが、茶葉を摘んだ後、変色を防ぐためにすぐ高温で蒸した後の工程に違いがあります。抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)は、そのまま乾燥させ、茎や葉脈を取り除いて挽くのに対し、揉み茶(もみちゃ)は文字通り乾かしながら何度も揉む工程があります。茶葉を揉むことで茶葉の細胞が壊れ、お湯を注いだ時にお茶の成分が浸出しやすくなるのだそうです。

かつて宇治では実際に人の手で茶葉を揉んでいたそうですが、当研究所ではすべて機械で揉む動作を再現しています。

また、碾茶を挽いて抹茶にする石臼も、今では機械で回しています。それでも、石臼1台当たり、1時間に30~40gほどの抹茶しか挽けないそうです。

 

参加者が宇治中心部付近で自由に昼食を取った後、世界遺産平等院鳳凰堂からも程近い縣神社の向かいにある、堀井七茗園を訪れました。

室町時代に3代将軍足利義満より優良茶園と指定を受けた7つの茶園を七茗園と呼びます。しかし市街地化が進み、今では現存するものは堀井七茗園が所有する奥之山茶園だけになったそうです。奥ノ山茶園は懸神社より南へ徒歩約10分、70~80m高い段丘地にあります。こちらでも京都府作業研究所と同様、二重の寒冷紗で覆いをして茶葉を育てますが、かつては葦簾(よしず)を敷き、その後、上から稲藁(いなわら)を被せて覆いをしていたそうです。

 

石臼で抹茶を挽く工程も見学させていただきました。こちらでも研究所同様、今では機械で挽いていますが、昔は人力で挽いていた石臼の模型を参加者も体験させていただきました。反時計回りに回しますが非常に重かった!

  

 

また、当園では成里乃という独自開発された品種を栽培してらっしゃいます。縣神社の茶室で、鍵甚の「姥玉(うばたま)」という生菓子ととともに成里乃の抹茶を試飲させていただきました。きれいな緑色で、甘くて香りのよいお茶でした。
ちなみに、成里乃とは、品種開発をした五代目のお孫さんの名前だそうです。その成里乃さんも、堀井七茗園で家業に携わってらっしゃいます。

 

さらに、店舗内で美味しい水出し煎茶を頂きました。水500ccに対し茶葉25g、冷した水で約2時間出すのがよいそうです。長時間出しすぎるとえぐみが出るとのこと。
水道水の場合は、5分以上沸騰させた水を冷やして使うよう勧められました。
外国の方へお勧めするにあたって、お茶を飲むならば軟水の方がいいとのことです。
ヨーロッパは硬水が多いが、硬水でお茶を淹れても美味しくない、とのこと。
日本でミネラルウォーターを買うか、硬水を軟水にするフィルターのようなものを使うような工夫が必要なのだそうです。
また、抹茶のパウダーを買いたいというお客様がいらっしゃる場合は、小さいパックをいくつか買うことをお勧めします。毎日飲むからと大容量パックを買っても、空気等に触れて色が変わってしまうと美味しくなくなってしまいます。さらに、「開封後は冷蔵庫に入れてくださいね」とアドバイスをした方がよいそうです。

 

今回の研修で、お茶の栽培から製造工程を学ぶことが出来ました。研究所ではお茶に関心のある個人を通訳案内士がお連れすることも可能だそうですし、堀井七茗園でも見学・試飲依頼を受け入れてらっしゃるそうです。今回学んだことを通して、ゲストに興味深いストーリーと体験を提供できるよう、日々準備していきたいと思います。

(寺田敏之 英語・フランス語 大阪府)

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