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JFG地方便り < 勝沼ぶどう郷 >

2021.9.15

この夏、何度か日本一の暑さを記録した山梨県甲州市勝沼は、日本一のブドウとワインの産地です。水はけのよい扇状地、少雨、長い日照時間、昼夜の気温差など果樹栽培の好条件が揃っています。江戸時代には、ブドウは甲州八珍果(葡萄、梨、桃、柿、栗、林檎、柘榴、胡桃または銀杏)の一つに数えられ、甲州街道勝沼宿の名物として知られるようになりました。明治の殖産興業の中で日本初の民間ワイン醸造所が設立されたのは、ブドウの産地という土台があったからです。しかしワインは、当時の日本人にはなかなか受け入れられず、苦戦が続きます。そんな中、明治中期には地域内での消費を進め、冠婚葬祭や晩酌で一升瓶のブドウ酒を湯呑で飲むのが一般的になっていきます。(今でも、多くのワイナリーで一升瓶のワインを製造しています。)戦後、製糸業が衰退する一方でフルーツの需要が高まり、水田や桑畑は姿を消して、一面にブドウ畑が広がるようになりました。今では、ブドウの栽培からワインの醸造や加工品の製造、観光ブドウ園やワインツーリズムなどブドウに関わる産業が発展しています。ブドウ農家やワイナリーの努力で勝沼のブドウ、ワインは国内外で高く評価されるようになっています。

観光ブドウ園:甲州市には100軒以上の観光ブドウ園があり、8月から10月頃のブドウの季節にオープンします。棚式栽培は江戸時代に考案されたもので、風通しが良く作業しやすいのが特徴です。ブドウの種類は、デラウェア、巨峰、シャインマスカット、甲州と時期によって変わります。ちなみに入り口の棚が高いのは車やバスの駐車のためです。

大善寺:ぶどう寺として知られています。718年に開山した行基がこの地にぶどうを伝えたという説があり、境内にもブドウ棚があります。本尊はブドウを手にした秘仏の薬師如来像。住職さんと檀家さんが境内で作っているワインは、御神酒として祭事や神事にも使われており、参拝者も百段以上の階段を上って国宝の薬師堂をお参りした後、日本庭園を眺めながら、このワイン(または、ぶどうジュースか抹茶)をいただけます(拝観料+300円)。

 宮光園、シャトー・メルシャンワイン資料館:日本のワイン産業の先駆者の一人、宮崎光太郎が自宅に整備した醸造所、観光ブドウ園の跡です。公開されている母屋には明治期から使われてきた醸造器具や行幸啓の資料が展示されています。向かいのシャトー・メルシャンワイン資料館は旧宮崎第二醸造所で、木造の建物の中には、醸造器具と共に日本最古のワイン2本も展示されています。資料館の隣のメルシャンワインギャラリーでは、ワインと軽食を楽しめます。

ぶどうの丘:1975年に勝沼ぶどう郷駅の向かいにある小高い山に整備されました。ワインショップ、宿泊施設、レストラン、入浴施設などがあり、甲府盆地と南アルプスの眺望を楽しめます。ワインカーブでは、甲州市の審査会をパスした約180種類の甲州市産のワインの試飲ができます。受付でタートヴァンを購入してください。館内には二人の青年が描かれたシンボルマーク(ここだけでなく、町のいたるところで目にします)が見えますが、この二人は、明治期にワイン醸造を学ぶためにフランスに派遣された高野正誠と土屋龍憲です。

ワイナリー:勝沼には大小約30のワイナリーがあります。原茂ワイン、丸藤葡萄酒、勝沼醸造、くらむぼんワインといった100年以上の歴史がある和風建築のワイナリーは、日本遺産「日本ワイン140年史」の構成資産です。その他、ワインのボトル詰め体験ができる白百合ワイナリー、ブドウ畑に羊がいる、まるきワイナリー、とそれぞれ特徴があります。ワイナリーの周りには、醸造用のブドウを育てる垣根仕立てのブドウ畑が広がっています。ワイナリーやブドウ畑の見学ができるか、予約が必要か等の情報は、事前に確認してください。赤、白のブドウジュースを製造しているワイナリーもありますので、お酒を飲まない方も楽しめます。

勝沼へは新宿から特急で約1時間半。勝沼ぶどう郷駅または塩山(えんざん)駅で下車してください。「ワインツーリズムやまなし」、11月3日のボジョレーヌーボーならぬ山梨ヌーボーの解禁日など、様々なイベントもあります。また勝沼に関連して、世界に通用するワイン造りに奮闘する醸造家(メルシャンのジェネラルマネージャーさんだそうです。)の姿を描く映画「シグナチャー」が2022年に公開予定とのことです。

(渡辺由美 英語)

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